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開いた密室はいかに閉じられたか [ToHeart2]

 またまた引き続いてToHeart2 AnotherDaysが話題。前回ブログ「温もりの残り香」と「Another Time, Another Place...」についての話題も出るので、以下はオールクリアした方、あるいはネタバレを気にしない方の中で、前回までのブログを読んだ方だけどうぞ。



白詰草:……あ! 神居さん、こっちこっち、ここ、ここ座ってください。いや、今日は暖かいですね。そろそろ桜が咲いてもおかしくないですよ。あ、コーヒーはブラックで良いですよね。
神居鈴:……な、なに? なんかヘンにテンション高くない?
白:え? そうかなぁ~。普通ですよ、普通。
神:とりあえず、AnotherDaysのことについて話があると言うことだけど……
白:うん、そうそう、それです。いや、これは前回の話の続きなんですけどね? もうなんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろうなぁ、って。私、バカなんじゃないでしょうか。
神:それは否定しないが。
白:否定してくださいよ! いや!今日は許す! もっと言って良いですよ。
神:バーカバーカ
白:「3月8日、神居さんにバカ呼ばわりされた。この恨みは忘れない」……と。
神:良いのか良くないのかどっちだよ。
白:どっちでも良いんですよそんなの。とにかく、私気付いたんですよ。
神:何にさ?
白:あのね、AnotherDaysはね、本編はToHeart2 XRATEDのキャラを引き継いでたじゃないですか。設定も色々借りて。
神:そうね。
白:郁乃シナリオもそうじゃないですか。あれには桜の枝が出てきますでしょ、深山桜の枝が。あれもXRATEDの設定なんですよ。PS2版には出てこない。
神:うん。
白:だったら、このみ&タマ姉シナリオもXRATEDの引き続きと考えるのが自然じゃないですか。これはもう間違いないと考えて良いんでは?
神:………ゴメン、何が言いたいのかさっぱり判らん。
白:さて、ここで問題です。「ToHeart2」と「ToHeart2 XRATED」はイコールであるか?
神:イコールのはずないじゃん。XRATEDはオリジナルを18禁にするために設定とストーリーをいじってあるから、基本は別物のはず。おかげで、愛佳と由真を筆頭にストーリーがグチャグチャになっちゃって、酷いという言葉では言い表せないくらい酷い。白さんだって、あれを見た時には絶句しただろう。あれはオリジナルのToHeart2の設定を借りた、完全な別作品だよ。
白:そう! そうなんですよ。それに気付けば話は早い。
神:は?
白:前回、このみ&タマ姉と郁乃シナリオは前作の踏襲で間違いないという話をしましたでしょ。でも、それがXRATEDだとすれば……ね?
神:……ああ、そういうこと?
白:そうそう。XRATEDではない『オリジナルのPS2版ToHeart2』においては"この展開は認められていない"と考えてOKのはずなんですよ。世界も時間軸も違うんだから、このみシナリオの最後の選択で「幼なじみ」を選んでも、ハーレムルートに入るとは限らない。
神:……意地悪なことを言うようだけど、XRATEDのこのみシナリオ、環シナリオは、「エロを除けば元作品と同じ」なんだよ。つまり、このみシナリオと環シナリオに話を特化すれば、XRATEDは単に「PS2版では描けなかった部分を描いた」だけと考えることが可能なのね。さらに、AnotherDaysの下敷きになっているシナリオは、PS2版だろうとXRATEDだろうとラインは変わらないんだよ。AnotherDaysのこのタマシナリオがPS2版ではあり得ないという根拠がない。
白:根拠がないことは確かです。でもね、そこはXRATEDの出現で、「どちらであるか」の可能性が事実上不定になっているんですよ。だから、あとはプレイヤーにゆだねられることになる。どちらを採用するかはプレイヤー自身であって、その点は動かない。
神:「両方である可能性」は?
白:それはない。XRATEDがオリジナルと別物である限り、XRATED中のこのみシナリオ、タマ姉シナリオもまた、オリジナルのそれらとは「別世界の物語」なんです。酷似していても同じではないということ。AnotherDaysを基軸とした場合、このみ&タマ姉シナリオから遡った時間は必ずオリジナルToHeart2かXRATEDかのどちらかでなければならず、そしてそれは不定です。だからプレイヤーの裁量でしかなくなる。
神:ま、回りくどいなぁ……。その通りっちゃその通りなんだけど。
白:いいんですよ、落としどころさえ見つかれば何も問題はない。ちゃる式に言えば無問題です。無問題。
神:……なんとまぁ、たくましいことで。
白:だからね、白詰草の中でのAnotherDaysの把握は、「XRATED設定の踏襲作品」で行こうと思うんです。決して「ToHeart2設定の踏襲作品」ではなくね。そうなれば、PS2版は無事ですから。XRATED版のこのみとタマ姉には……、こっちはもう仕方ないから涙を呑んでもらうとしましょう。そもそも本人たちは幸せそうなんだから、その点は構わないでしょうし。
神:「無事」っていうのもヘンな言い方だけども……。まあいいか。
白:そして今も昔も私が最も愛しているのは、あくまでもPS2版ToHeart2。これはPS2版発売からXRATEDを経て今に至るまで、一度も動いたことのない事実ですよ。そしてこれからも変わらない。ウチのSSだって、ベースはPS2版の設定で書いているはずです。一部そこから外れるのはささらとまーりゃん先輩が出てきているというところだけで。
神:んじゃ、そのささらまーりゃんは今後どうすんのさ。もう書かないの?
白:書かなきゃ良いんじゃないですかね。
神:マジで?
白:ううん、それはウソ。
神:をい。
白:こちとら押しも押されぬアマチュアですからね。そんなところで杓子定規になっても無意味です。AnotherDaysがXRATEDの要素をつまみ食いしたように、こちらもXRATEDやAnotherDaysの要素をつまみ食いすれば良いんですよ。
神:節操なくないか?
白:オフィシャルの作品展開が既に節操ゼロなんだから、そんなところで文句言われたかないです。
神:キツっ! なんか今日の君、いつもとキャラ違わない?
白:なりふり構ってられませんよ。どの道、XRATEDにおいてオリジナル作品の箱を開けてしまった時点で、あらゆる場所に矛盾が生じているんです。体系だった軸を引くことが、既に不可能なんですよ。ならば、プレイヤー側でそういった折り合いを付けないと、作品世界が把握できないし、ましてや描くことなんてできっこないです。まさか、ちゃるやよっちの話を書く際に、AnotherDaysの設定をまるで使わないというわけにはいかないでしょう。シルファなんてどうします? 口調からして、設定を流用せざるを得ないじゃないですか。
神:いや、だからいっそ書かなきゃ良いんじゃないの?
白:それは嫌ですよ。だってAnotherDays自体は好きなんですから。アマ作家が対象の作品好きだっていったら、書かないわけがないでしょうが。結局の所、最大の悩み所だったのは「いかにこのみ&タマ姉シナリオを自分の中で消化するか」という一点で、その他はぜんぜん問題ない。そして、その問題はもう解決したんだから、あとは作品を全力で愛するだけです。
神:"解決した"っていうか、ほとんど無理矢理やっつけたって言う感じだけど……。ま、いいか。
白:そうそう、これもひとつの人生訓ですよ。
神:どんな?
白:「人生あきらめが肝心」
神:結論それかよ!




――補足コラム「閉じた密室」 神居鈴&白詰草


 先の神居鈴と白詰草のやり取りでは、語り手がベースとしている考え方、主義主張が乱発されているため、そうとう判りづらい内容となっています。少し上記について補足のためのコラムを書くので、私が思っていることのご理解に繋がればと思います。


 さて、突然推理小説の話になります。まず、有栖川有栖の「孤島パズル」から次の文を引用しましょう。探偵役の江神二郎の台詞です。

「俺は、『密室トリック』より『密室』の方が好きなんかもしれん。――こんなミステリはどうかな。不思議、としか言えん密室状態での殺人事件が起きる。居合わせた者たちはただ呆然とし、恐怖する。やがて探偵はみんなの前に進み出、黙ったままそのドアを板と釘で打ちつけると一同を振り返り、ひと言だけ告げる。『さぁ、帰りましょう』……」

 密室は密室であるが故に密室として美しく完成する。開けるなんて、そんな野暮なことをするな。という有栖川有栖の密室に対する考え方がこの文に象徴されています。
 無論、推理小説でそのような展開はあり得ません。なぜなら、推理小説は「謎を開くこと」で完成する小説形態だからであり、美しい密室ですら開くことが宿命づけられます(逆に、アンチミステリと呼ばれるジャンルはこれを反転させることによって成立します)。

 しかし、いずれにしても重要視されるのは「成立した瞬間に美しく完成する」という点。そして、その状態を閉じた密室とするならば、それはもう開いてはいけないものとなる。
 美しく完成されたものを開いてはいけない。密室であれば閉じたまま開くな、推理小説であれば完成した作品をあれこれいじるな。
 例えばヴィンセント・ヴァン・ゴッホの「夜のカフェテラス」に対し、これに何かを追加しようなどと考える輩はいない。なぜならそれは既に完成した存在であり、手を加えればその美しさが失われてしまうことを、誰もが知っているから……。

 先の神居鈴と白詰草の会話では、この考え方が究極のベース、美意識として横たわっています。いったん閉じたものを開くことを激しく嫌う。
 ToHeart2であれば、PS2版で物語は閉じており、そして例えようもなく美しく完成された作品となっていたのに、どうしてXRATEDなどという、「閉じた作品を開く」所業をするのか。そんなことをしないでくれ。美しいものを美しいまま残しておいてくれ。無理に開いたりすれば、物語が崩壊することは目に見えているのに。
 そして――、できあがった作品は予想通り、オリジナルのToHeart2の美しさなど見る影もない、破壊された世界が広がっているばかりのものだった。……たまに誤解されますが、エロのあるなしは理由ではない。問題なのは「エロ無しを前提として作られた物語に、無理にエロを挿入した」ことにある。逆に言えば「最初からそれコミで作られていた」ならば問題は何一つなかった。入れる余地などないにも関わらず、それでも必要のないものを無理に突っ込まれた物語ほど惨めなものはない。
 かろうじて、久寿川ささらという新たな物語があり、愛佳や由真のそれにおいて、違う設定やラインが用意されていたおかげで、まったくの別作品という位置づけを自分の中で策定できましたが、そうでなければ、未だにXRATEDは自分の中で忌みたるものでしかなかったはず。

 そして、ここに来てAnotherDaysがリリースされた。主にXRATEDの設定を引き継いだ作品として。
 とはいえ――、この作品の本編それ自体は、特に上記の話に縛られることなく受け入れられるのです。なぜなら、AnotherDaysの物語自体は、設定の引き継ぎ云々を抜きにしても「疑いようのない別作品」であり、オリジナルのAnotherとして成立するからです。テーマが違う、キャラクターが違う、そもそもストーリーが最初から違う。愛佳シナリオの後日談である郁乃シナリオについても、これはあくまでも「愛佳シナリオの変奏曲をベースラインとした郁乃の物語」であり、前作愛佳ストーリーとは存在意義や理由がまるで違う。
 上記のことから、ToHeart2 AnotherDaysは作品としてはそれ単体で閉じていると考えています。そう、「このみ&環」以外は。

 では、なぜ郁乃は良くて、このタマはダメなのか。これは、郁乃シナリオが先に書いた通り「変奏曲をベースとして独立する物語」であるのとは違い、このタマは「前作に直付けで接続される物語」であることが理由です。いかに言葉を弄したとしても、このタマの物語が「前作の最後の選択肢以降を補完するもの」であり、かつ「同一のメロディラインを持つストーリー」であることから逃げることはできない。このためにシナリオ単体では閉じることができず、前作シナリオを含めて理解しなければいけない必要に迫られてしまう。
 要は、それ単体で閉じていたはずの前作このみシナリオをいったん開き、ハーレムルートを継ぎ足したものが、このみ&環のシナリオの立ち位置です。性質としてはXRATEDで追加されたエロシーンと同一であり、結局は「入れる必要のないものを無理に突っ込んだ」ものにしかならない。
 ましてやそれが、「温もりの残り香」や「Another Time, Another Place...」で書いたように、前作で描かれた美しい形を否定しかねないものであれば尚更許すことはできない。それはそれ、これはこれなどとは言わせない。作品とは、閉じた輪の中に成立するものなのだから。
 「このシナリオは前作とは別の意味を中心に持ちながら描かれるものなのだから、認めるべきではないか?」という主張もあるでしょうが、しかしその場合は「まったくの別作品として描かれるべき」であり、前作を開いたところに立脚すべきでない。例えば、AnotherDays本編中に、前作とはまったく違う新たな物語として、このみと環を攻略するルートを設けるなどです。そのやり方であるならば文句はない。それは単体として成立するのだから。

 それとも、閉じた物語をわざわざ開かなければ不足するほど、オリジナルのToHeart2は脆弱なものだったのだろうか? 優しさは足りず、幸せは枯れ、愛情の飢えを持てあましてしまうほど、痩せ細った作品だったのだろうか?
 そうは思わない。思うはずがない。あれほど素晴らしい作品は他に知らない。あらゆる意味で、理想の世界をこの目に見せてくれた最高の作品だった。だからこそ、五年も封印していた小説の筆を執ったのだ。その想いを否定することは、たとえ相手がオフィシャルでも認めない。


 上記が、普段は語ることのない、ToHeart2シリーズについての想いです。万人に受け入れられる主張ではないかもしれない。でも、これが譲ることのできない境界線。

 だからこそ――、すでに開かれてしまったのであれば、密室を閉じるのは読者(プレイヤー)である自分自身。牽強付会、屁理屈のオンパレードであろうとも、そこに閉じる鍵が落ちているならば全力で拾うまで。

 そして、前半の会話部分で書いた通り、密室はつつがなく閉じられた。
 いまはただ、もう開かれることのないことを――、閉じた密室に満ちた安らかな平穏が破られないことを、切に願うばかりです。


2008年3月8日 ――神居鈴&白詰草
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